1.女性の社会進出は少子化対策なのか?
保育園の増強など、少子化対策の一環として、女性の社会進出をサポートする政策がすすめられている。
しかし、依然として、女性の社会進出は少子化対策になるのか?という疑問の声も大きい。
今回は、本当に女性の社会進出が少子化の対策になるのかを改めて考えてみた結果、次のような結論に至った。
- 確かに、働くママを増やすことで、少子化を防げる可能性はある。
- しかし、社会にこんなに価値をもたらしている「子育て」を支える家庭の負担をこのままにして、さらにママに働くことを期待するのはバランスが悪すぎる。
- 当面、社会が教育費を強力にサポートして子育て家庭の負担を減らし、子供を増やしても負担(手間暇はかかるがせめてお金の負担くらい)は増えないという構図にすれば、少子化は改善される。
詳細は、次のとおりだ。
2.夫婦が理想の数の子どもを産まない大きな理由
まず、少子化の理由であるが、これは単純ではない。
晩婚化や核家族化など、いろいろなことが複雑に重なり合っているのだろうが、大きな原因の一つは、子育てに必要な費用が高くなっていることである。
平成24年版の「子ども・子育て白書」によると、以下のとおり、50歳未満の夫婦が欲しいと考えている理想の子どもの数は2.42人(2010年時点)と、依然として多いのであるが、理想の数ほど子供を産んでいない。
その大きな理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」である。
社会が発展すると子供の教育費が高くなるという。
先進国で仕事を安定して確保していくには、知的な労働によって高い価値を生み出せる人間が求められるためであり、そのような大人になってほしいと親は望むので、子供の教育費が高くなっていくのだ。
ちなみに、子供一人当たりに要する費用は一人1300万円と言われる。
(二人目、三人目になると子育てにかける費用は減っていくと言われるが、ここでは横に置いておこう)
その一方で、給料は増えていない。
平均給与は400万円程度で、少しずつ減っている。
共働きをせずに、塾代などの高い教育費を負担できる世帯は限られてくる。
つまり、理想の子どもの数を産んでいない大きな理由は、増え続ける子育て費用に対して、 家計の収入が追いついていないのだ。
3.男性の収入だけでは家計が成り立たない現状
この状態を簡単なモデル図で次のように表してみた。
いろいろ細かいところはあるが、ざっくりと状態を理解するための単純モデルである。
矢印は、負担や貢献や対価の流れを意味し、矢印内の数字はざっくりと量的なイメージをつかむためのものである。
子供が育つためにはもちろん世の中からの補助や公立教育も受けることになるが、やはりベースとして、時間や費用を負担して、子育てを支えるのは家庭である。
社会人として父親が働くことで世の中に価値を生み出し、それによる対価が支払われて、家庭に給料という形で帰ってくるのだが、子供を持つ家庭は、上図のとおり、給料(2)よりも子育てに要する費用(1+2=3)の方が上回っている状態にあるのだ。
4.共働きによる改善が注目されている
世間で求められている女性の社会進出とは、働くママを増やそうという方針にも聞こえる。これを同じようにモデル図に表すと、次のようになる。
ママが働くことで、子育てによる出費(2+2=4)と給料(2+2=4)がバランスする。そして、働くママが提供する価値(5)が世の中を潤すことが期待されているのだ。
5.子育てという社会貢献に対する対価が低すぎる
しかし、よく考えてみたい。
子供を育てるというのは、将来の労働力をつくりだす仕事である。
直接的に、世の中に価値を生み出すのは、子供が社会人になってからではあるが、その社会人をつくりだすのは「子育て」である。
社会に価値を生み出すための最上流の仕事として、非常に重要な役割を「子育て家庭」が担っている現状を忘れてはならない。
多くの時間を費やすだけでなく、養育費・教育費という家計負担も大きいという現状は、「子育てという社会への貢献に対して、あまりに対価が低すぎないだろうか」。
子どもを増やすほどに家計負担が増えるという構図では、子供を増やそうという家庭が減ってしまうのはある意味、当然である。
その対策として、こんなに献身的に自分の時間をささげ、自分の買いたいものを我慢して子供の教育費を確保しているママ達に、まだ働け。保育園を作るから。というのは、あまりにバランスが悪すぎるのではないかと思う。
(働くことが生きがいのママを支える話は当然あって、それは今回の議論の対象ではありません・・)
6.子供の教育を社会がもっとサポートすることでバランスは改善される
このアンバランスを 解消する一つの方法を考えてみた。
それは、子供に対する教育を世の中がもっと負担するという方法だ。
モデル図としては、次のようになる。
つまり、公立の教育、場合によっては、塾や私学を活用してもよいが、家庭への教育費の負担をこれ以上増やすことなく、よい教育を国や地方が提供する(2→3)ことにより、価値をたくさん生み出せる社会人を輩出していく(5→7)。
これによって、給料が増えてくれば(2→3)、子育ての費用に対応でき、子供を増やせばそっくり負担が増えるという構図が解消される。
そうすれば、少子化も食い止められるだろう。
ただし、状況を変えるには、とにかく今の子育て家庭のバランスをただちに改善しないといけない。給料はすぐには増えないので(2のまま)、当面は、次のように、家庭が背負っている教育費(塾代など含む)を国や地方が負担する必要があるだろう。
そうすれば、家庭の負担は給料とバランスする(1+1=2)。
もちろん、シングルマザーに対しては、さらなるサポートが必要だ。
7.まとめ
ということで、今回考えてみてわかったことは、次のようなものだ。
- 確かに、働くママを増やすことで、少子化を防げる可能性はある。
- しかし、社会にこんなに価値をもたらしている「子育て」を支える家庭の負担をこのままにして、さらにママに働くことを期待するのはバランスが悪すぎる。
- 当面、社会が教育費を強力にサポートして子育て家庭の負担を減らし、子供を増やしても負担(手間暇はかかるがせめてお金の負担くらい)は増えないという構図にすれば、少子化は改善される。
いじょうです。