Voyage of Life

3人の子育てパパが日常と読書から学んだコト

「よかたい先生~水俣から世界を見続けた医師-原田正純」を読んで(2014読書感想文課題図書)

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先日の記事「読書感想文のコツ」で、2014の読書感想文全国コンクールの課題図書として挙げた「よかたい先生」は、小学校中学年の部の課題図書になっているものです。

 

中学年の部の課題図書にしては、文字が多く、内容もしっかりとしています。

現場で戦い続けた医師の優しい語り口で語られる公害という問題は、大人のずるさが生み出したもの。

大人になりつつある中学年の子供たちがこの本で感じることは多いでしょう。

逆に、いわゆる9歳の壁を超えてない子どもにはしんどいかもしれません。

子供の学習指導において理解しておくべき「9歳の壁」 - Voyage of Life

 

今回はこの本について具体的に紹介します。ネタばれが嫌な方はご注意くださいね。

 

■どんな本か?

水俣病をはじめとする公害病の現場で、人の命や生活を守るために戦い続けてきた原田正純先生という医師がいます。

先生が自らの人生と公害病との戦いで感じてきたことを語った内容を、筆者が書き下した本です。

 

■読むポイント

この本は本当に中身が濃くって、ポイントはたくさんあると思いますが、「ボクの視点」で印象深いところを挙げておきます。

これこそが読書感想文のコツですから!

・定説を疑い、現場の事実を確かめることの大切さ

原田先生は、現場を歩き、声を聞くことで、「毒は胎盤を通さない」というこれまでの定説に反する事実に出会い、胎児性水俣病を発見しました。

また、「一酸化炭素の後遺症はない」という定説に反する患者の苦しみに出会い、粘り強くこれを立証するデータを取り続けました。

国や企業などはお金や物事を動かす力を持っているので、自らに都合の良いように事実を捻じ曲げてしまうことがありますが、この先生は「現場の事実を確かめる」ことを大切にしました。

「事実が大切って、そんなの当たり前やん」と、子供たちは思うかもしれません。

しかし、ずるい大人もいるし、それに立ち向かおうとする大人もいるということです。

 

インターネットが普及するようになった今は、一般人も情報を世界に発信できるようになりました。昔ほど、個人が泣き寝入りすることもないので、国や企業もこのような一般人をナイガシロにしていると思わぬ損失を招きますから(やっぱりお金か!)、こんなにひどいことはなくなってきたと思います。

しかし、世界を見ると、まだまだひどいこともありそうです。

そして、我々一般人としても、誰でも定説めいたことをインターネットで発信できる世の中だからこそ、現場から離れていきがちになるので、デマに騙されず「現場の事実を確かめて行動すること」が大切な世の中になっていると思います。

 

それと、前向きな話としては、やっぱり新しい発見をするときには、これまでの定説や考えにとらわれ過ぎてはいけないということです。

現実に起きていることをしっかりと見て聞いて、自分で考えて行動することがやっぱり大切なんですね。

 

・公害が引き起こす差別と差別から生まれる公害

公害ってなんで起きるのだろう?

この疑問を考えるためには、社会のダークな一面から眼をそらすことはできません。

原田先生は、差別ということに触れています。

水俣病の場合は、公害による障害のある人が差別を受けました。原因不明の障害に対して、病気がうつるとか、ひどい話があったのでしょう。

一方で、カナダの先住民水銀汚染は、差別のある先住民が人権を無視され、ひどい扱いを受けたことで公害が発生しました。

人間って平等なはずなのにこんなことをしてしまうなんて酷いなって思いますが、いじめとか障害を持つ方との接し方とか、そんなに簡単じゃないし、決して他人事ではないなと思います。

 

・貧しさがなくならないと公害はなくならない

もう一つの公害の原因として「貧しさ」を挙げられています。

アマゾンの金採掘場では、仕事を選べない、生きる場所すら選べない弱者が公害の被害者になっていました。原因がわかっても、その仕事を辞めるわけにはいかないのです。

また、アメリカでは、学校に行けず文字が読めなかったので、間違って、水銀を含んだエサをブタにあげ、その豚肉を食べて病気になった人がいました。

 

それに比べて、今の日本は豊かです。大体みんな学校にいけるので、文字も読めます。

仕事が選べる。学校にも行ける。こんな世の中は、あたりまえではないのだなあと、改めて感じます。

 

・障害を個性とみなせる社会へ

その存在が大切なんだ。だから、「障がいがなかったら?」という考え方はおかしいんだ。障がいが不幸なわけではなくて、差別や偏見、障がいを持った人の生活をむずかしくしている社会のあり方に問題がある

もちろん、根本の原因をつくった人たちの問題はあるのですが、障害そのものが不幸なわけではなく、ボクらは障害も含めた「存在そのもの」を受け容れられるように、心を豊かにしなければならない。社会の在り方の問題でもあるのだということを教えられました。

・思いやりと想像力の大切さ

先生の伝えたいことが最後に力強く、やさしく書いてありました。

 

相手を思いやることができれば、立場がちがってもわかり合う努力をするだろう。それがないから、対立が生まれる。対立や闘争からは何も生まれんよ。今、自分のしていることが何につながっていくのか──それを考える力を持っていてほしい。自分が持っているペットボトルがどれくらいのエネルギーを使って再利用されるのか。それが本当に必要か、考えてほしい。つまり、想像力とはそういうこと。今から、より困難な社会で生きていくきみたちには、それが必要だと、ぼくは思うとるんだ。

「思いやり」と「想像力」は、鶏と卵のような関係なんだと思います。

「想像力」とは、以下のようなことがわかることではないでしょうか。

  • こんなことをしたら、相手はどう感じるかな。
  • こんなことをしたら、世の中にどういう影響を及ぼすかな

そのためには、共感力とか科学や歴史の知識を養うことが必要だと思います。

しかし、まずは、「そういうことを考えようという意思」が必要です。

それが、原田先生のいう「思いやり」なのかもしれません。

どちらかというと、その思いやりに問題があったから、公害なんかが起こってきたのだと思います。豊かさを求めて企業などが突っ走った結果、思いやりというものを置いてきてしまった。。

 

今の世の中を考えてみると、地球温暖化とかPM2.5とか、地球規模での対応をしなければ解決できない問題が山積みです。

しかし、自分さえよければいいという国がほとんどのような気がしています。

「思いやり」と「想像力」は、これからの世の中を救うためのキーワードであることに間違いありません。

公害を多く経験してきた日本が、このキーワードで世界をリードできるような国になれれば、誇り高いなと思いました。

 

■まとめ

子供たちにとっては、かなりディープ内容だと思いますが、大人になるための教材としては、とても刺激的でよいのではないでしょうか。

ボクにとっても、次のようなところが印象的で、こういうことを理解して行動できる大人になりたいと思いました。。

  • 定説を疑い、現場の事実を確かめることの大切さ
  • 差別や貧しさの問題点
  • 思いやりと想像力の大切さ

 

今日は、いじょうでーす。

 読書感想文の書き方と2016年の課題図書は、こちらの記事も参照ください。

グッとくる読書感想文の書き方と2016年の課題図書(青少年全国コンクール)