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「失敗の本質」に学ぶ:腐った組織が生まれ変わるための8つのヒント

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今回の三菱自動車の燃費不正の件をきっかけに、その原因になりうる悪い空気がどう作られるかなど、組織が陥りがちな課題について考えちゃいました。(本気で組織の不正を無くすために今すぐトップがやめるべき4つの行動(コンプライアンス徹底とは何か)

そこでも参照した、太平洋戦争における日本軍の組織論的研究成果をまとめた「失敗の本質」の入門書を基に、組織の問題を解く鍵を、改めてまとめてみました。

 

1.細かい戦術の前に、大局的な戦略を考える

戦争は、いくつかの戦闘の繰り返しです。

この戦闘はどうでもよいが、その次の戦闘は勝たねばならない。 

そういうメリハリをつけて、米軍は日本に対して戦ってきたそうです。

ところが、日本は、どの戦闘に対しても頑張れという方針。 

日本人の持つ技能や忠誠心、集中力で、現場は全力を尽くして、多くの戦闘で勝利を収めたものの、結局戦争には負けてしまったのだ。

 スティーブン・コヴィー氏の言葉、 「成功のはしごに足をかける前に、それが目当てのビルに立てかけてあるかどうか確かめろ。」 という話を思い出す。

何かをいきなりやりはじめるのではなく、まず、大局的な戦略を考えることが大切である。

 

2.どの指標を追いかけるべきかをよく考える

戦略とは、追いかける「指標」である 。

戦略をよく考えようということは、具体的には、何を追いかけるかをしっかりと決めようということである。 別の言葉では、KFS(キーサクセスファクター)とも言われる。 

米軍の掲げた指標は、とてもシンプルで効果的なものだったそうです。

「空母を沈めること」。

そして、 燃料供給と資源輸送を絶つために

「輸送船を徹底的に撃沈すること」 。

日本企業が、「価格」や「機能」という指標を追いかける一方で、マイクロソフトは、「互換性」や「ネットワーク」という新しい指標を追いかけ、さらに、アップルは、シンプルで洗練された「デザイン」を追いかけた。 

めまぐるしく変わる、生き残るための指標を、いかに見出すか。仕掛けていけるかということが勝利にはとても重要なのです。 

そのためには、「想定した目標と問題自体が違っているのではないか」という疑問を常に持ちながら、検討していく姿勢が大切である。

 具体的な検討ステップとして、以下が紹介されている。

 ① 既存の指標の発見 

今の戦闘や市場を支配している指標は何か?

なぜ零戦に勝てないのか?

旋回性能が高いからだ。

というように、現状を分析し、既存の指標を見出す。 

② 敵の指標の無効化 

既存の指標では勝てない。 そうであれば、その指標を無意味なものにするにはどうすればよいか? 米軍のF4Fは、2機一組で零戦と戦うことで、背後を取られないようにした。

③ 新たな指標で戦う 

つまり、2機一組という「連携性」という新たな指標により、優位性を取り戻した。

 

3.達人だけでなく、異端児も育てる

日本は、猛練習で驚異的な技能を持つ達人を作り、そこに頼りがちである。 

一方で、アメリカは、達人がいなくてもなんとかなるロバストなシステムを作る。

あるいは、ルールを変えてしまい、達人が機能しない状況を作ってしまう。

そんな傾向があるという。 

例えば、素晴らしい空戦性能を持つ零戦に対して、米軍のF4Fは防弾性を高め、集団で攻撃するという対応を取った。

 つまり、戦略ももちろん必要だが、 そのベースにある大前提(ルール、プラットフォーム、ビジネスモデル)自体を疑い、新しいルールを作り出す可能性がないかを探る必要がある。

そのためには、 まず、高い視点を持ち、世界を知る必要があるのは言うまでもないが、現状を壊すために、異端児の発想が必要となる。 

そのために、異端性のある自由な意見を取り込めるような、懐の深い風通しのよい組織にしておくのがよい。

 

4.現場の意見を取り込む

イノベーションの芽は組織が奪う。 

技術的イノベーション自体は、個人の研究者・科学者が行うことができても、成果に育てられるかどうかは、組織内に浸透する意識構造に非情なまでに左右されてしまいます。

レーダーという技術は、現場サイドでは重要だということで開発を行っていたが、 結局、海軍全体の価値観としては重要性が認識されず、採用されなかったようだ。 

日本軍上層部の特徴として、「現場を押さえつける権威主義」 「現場の専門家の意見を聞かない傲慢さ」 があったという。 

一方、米軍の艦隊司令長官兼、作戦部長のアーネスト・キング元帥は、中央の作戦部員と最前線(現場)の要員を1年前後で次々と交替させ、過酷な最前線を体験したスタッフを、中央作戦部に引き戻して活躍させる人事システムを採用した。 

これにより、「最前線の緊迫感・切迫感」を中央部に伝搬させたのだ。 そして、「現場最前線の体験と正しい戦略思考の両輪」によって、新しい戦略、そして、イノベーションを生み出していった。 

日本企業でも、ローテーションはよくあるが、こういう意味で、意義のある戦略なのだ。

 

5.人事評価をきちんと行う

米軍は、悲観的で行動の遅い司令官を更迭し、迅速な行動力と勝利への執念のある人物を司令官に抜擢し、それ以降有利に海戦を進めた。 

一方、やる気だけはあるが、無謀な作戦を立案・実行した中将の責任を日本軍は問わなかった。 

組織のメンバーは、このような人事評価を見ている。 「人事評価とは組織に対するメッセージ」なのだ。 例えば、

やる気さえ見せていれば、結果に対しても責任は問われない。

異端性のある意見を発言する人は、偉くなれない。むしろ左遷されうる。

成果を上げても、結局は上層部に気に入られたものが偉くなる。

そういったメッセージを組織のメンバーは、人事評価から強く感じ取っている。 

組織の文化にとって、人事評価というのは非常に大きな意味を持つのだ。

 

6.現場を自分の目と耳で確認する

縄張り意識や派閥主義が強くなると、セクショナリズムを生み出し、組織全体を考える人物がいなくなってしまう。 

トップには、重要な情報がフィルタリングされ、概略の情報だけしか伝えられなくなる。 もちろん、その過程で新しいアイデアも殺されていく。 

これを解決するには、トップはもちろん、現場を持つすべての人が、 自分で現場に足を運び、最前線の人間と話をし、モノを目で見る必要がある。

 

7.場の空気に負けない

空気とは、合理的な議論を行わせずに、 問題の全体像をある一部の正論から染め上げてしまう効果を持つ。

偏った1点の正論で、全体の議論を押し切ろうということを許さず、または、なんとなくそういう風に感じてしまうという感覚に鞭を打ち、その点は全体像に対してどれほど重要なのか?ほかの観点はないのか?という風に、合理的、科学的に考えることを忘れてはならない。

都合の悪い情報を無視し、希望的観測に依存するような末期の暴走状態に陥る前に、方向転換をしなければならない。 

方向転換を難しくする心理的要因として、筆者は4つを挙げている。 

 

  1. すでに多くの犠牲があるから、今更引き返せない。 
  2. せっかく決まったのに、今更問題を蒸し返したくない。 
  3. 意見する人間が左遷されるなどの評価システムを考えると、発言したくない。 
  4. こんなことを言ったら、あの人が困るかもしれない。 

このような心理的要因に打ち克つ必要がある。場の空気に負けてはならないのだ。

 

8.リスクへの対応を考えておく

とかく組織は、なんとなく都合の悪い情報、リスクを隠すような心理に陥りがちである。 

しかし、コンティンジェンシープラン(万一を想定した計画)がない状態では、 さらに損害が増えていく。

コンチネンタル航空を再建したゴードン・ベースンは、「耳に痛い情報や都合の悪い可能性を警告する人物」を遠ざけることなく、真実を正確に把握し、リスクを周知徹底して、予防につなげていたようだ。 

最近は、「リスクマネジメント」というスローガンが企業などでも多く聞かれるが、次のような具体的な行動に落とし込むべきである。 

  • 自分で現場を見ること 
  • 聞きたくない情報を勇気をもって上げてくる人材を大切にすること。 
  • リスクを公表し、迅速に対応をとること

 

おわりに

東芝の粉飾決算や三菱自動車の燃費不正をはじめ、太平洋戦争から約70年経っても、我々はまだまだ同じ過ちを繰り返しているような気がする。
腐った組織が生まれ変わるためには、失敗の本質を理解し、最低限この8つのことを実践していく必要がある。
すぐには組織は変わらない。しかし、何かを始めなければ何も変わらないのだ。
  1. 細かい戦術の前に、大局的な戦略を考える
  2. どの指標を追いかけるべきかをよく考える
  3. 達人だけでなく、異端児も育てる
  4. 現場の意見を取り込む
  5. 人事評価をきちんと行う
  6. 現場を自分の目と耳で確認する
  7. 場の空気に負けない
  8. リスクへの対応を考えておく

  

「失敗の本質」を読みやすく解説した本がこちら。

「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ

「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ

 

 

オリジナルはこちら。野中郁次郎先生の授業を10年くらい前に受けたことを思い出します。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

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  • 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1991/08
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